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最高裁判所第二小法廷 昭和40年(オ)895号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人馬淵分也の上告理由第一点について。

所論は、原判決が最高裁判所昭和三三年(オ)第七三四号同三五年六月二日第一小法廷判決(民集一四巻七号一一九二頁)の判旨に違背するというが、右判例は本件と事実関係を異にするから、これとの抵触はない。

所論は、上告人が被上告人に強要されて本件代物弁済契約証書を作成し、右不正な証書により一方的に本件代物弁済による登記がなされたこと、被上告人の上告人に対する貸付金額は一五万円ではなく手取七六、二三〇円にすぎなかつたこと、これに対し上告人が五万円の内入弁済をしたから差引残額は二三、七七〇円であることを主張するが、右はいずれも、原審で主張なく従つて認定のない事実である。その余の所論事実も原審の認定にそわないことである。よつて、右事実関係を前提として原審の違法をいう所論は、採用できない。

同第二点について。

原判示の貸金一五万円につき本件家屋を目的とする停止条件付代物弁済契約が有効に成立したとする原判決の判断は、その理由説示に徴し首肯できて、所論違法はない。従つて、所論は採用できない。

同第三点について。

上告人が本件貸金一五万円に対する利息として貸渡の日たる昭和三五年六月六日から約定弁済期限たる同年八月六日までの分を約定利率月七分の割合で支払つたことは、当事者間に争いない事実として原判決の判示するところである。

しかして、右が利息制限法の制限を超過する利率による利息の支払であることは、所論指摘のとおりであるが、所論昭和三五年(オ)第一一五一号同三九年一一月一八日大法廷判決(民集一八巻九号一八六八頁)の判旨に則つて、右超過分を元本に充当して計算しても、元本残額はなお一三万余円を下らないことが明らかであるところ、本件のように債権担保の機能を営む停止条件付代物弁済契約にあつて、被担保債務の一部弁済があつたにすぎない場合には、反対の特約もしくは権利の濫用と認められるような特段の事由がないかぎり、右代物弁済契約の効力に消長をきたさないものと解するのが当事者の意思に合致するものというべきであり(当裁判所昭和三九年(オ)第一三六七号同四〇年一二月三日第二小法廷判決参照)、右特段の事由の主張立証のない本件としては、右制規超過の利息支払の充当関係について原審判断に所論大法廷判例に違反する点があつても、元本の支払がないまま弁済期を経過したことによつて本件停止条件付代物弁済契約の条件が成就し本件家屋の所有権が被上告人に移転したとする原判決の結論に影響しないものといわねばならない。従つて、右判例違反をもつて、原判決の違法をいう所論は、採用できない。

その余の所論は、原審認定にそわないことを前提とするものであつて、採用できない。

同第四点、第五点について。

原判決は、昭和三六年二月末頃、被上告人と訴外岡仲修との間において本件家屋を所論宅地とともに代金三八万円で右訴外人に売り渡すことの話合いがなされ、被上告人は内金として一五万円を受領したこと、当時上告人がこれを占有居住していたため、被上告人が責任をもつて上告人より明渡を受けた上で右訴外人に引き渡すことになり、同訴外人は右引渡を受けると同時に残代金を支払い、またその際に所有権移転登記手続をする旨が約定されたこと、右宅地についてのみ同年三月一日受付をもつて、右訴外人のために、同年二月二八日付売買予約を登記原因とする所有権移転請求権保全の仮登記がなされたことを認定し、右被上告人と訴外人との話合いが売買予約でなくて売買であるとしても、当事者の意思は上告人より明渡を受けるまでは所有権を売主に留保する趣旨であつたと見るのが意思表示の解釈として合理的であると判示しているところ、右原審の認定は、挙示の証拠関係に徴して肯認できるし、その認定事実関係のもとでなされた意思表示の解釈は首肯できる。

原判決に民法五五五条の解釈適用の誤りがあり、審理不尽、理由不備、理由そごの違法があるとの所論は、いずれも原審の専権に属する証拠の取捨判断について異見を述べるか、原審認定に反する事実関係を前提とするものであるから、採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外)

《当事者》

上告人 杉森正徳

右訴訟代理人弁護士 馬淵分也

被上告人 有限会社 山陰商事

右代表者取締役 山路 譲

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